名古屋を映画でいちばんアツい都市に――。
個人的評価:★★★★★★★★☆☆ 80点
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2017年04月29日公開/65分/日本
監督:樋口智彦
出演:坪井篤史、木全純治、白石晃士、松江哲明、カンパニー松尾、井口昇、前田弘二、宇野祥平、内藤瑛亮、直井卓俊、栗栖直也、森裕介、大浦奈都子
ナレーション:竹中直人

若松孝二監督が経営していたことでも知られる名古屋のミニシアター【シネマスコーレ】。そこで働く坪井篤史という映画狂人を追ったドキュメンタリー。テレビ放映版は未見だったので劇場版で初鑑賞。

映画好きは必見の作品だと思いました。VHSファンなどは特に。

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あらすじ

名古屋駅の西にあるミニシアター、シネマスコーレ。その副支配人を務める坪井篤史氏は、現在は生産されていないVHSの映画ソフトを7,000本以上も収集する熱狂的映画ファンであり、“名古屋映画館革命”と銘打ったさまざまな活動を行っている。また、手書きのポスターや、映画にちなんだフードメニューなどで映画と映画に関わる人々を応援するシネマスコーレに、上映企画などを申し出る監督も多い。そして、「超次元絶叫システム」と題した上映会が、白石晃士監督とのタッグで敢行される。
(以上シネマトゥデイより)

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感想

面白かったです。熱量に圧倒されました。映画に人生を捧げて生きてきて映画を愛しすぎるがゆえ映画キチガイになってしまった坪井さん(褒めてます)。そして、ついには自身が映画になってしまったという…夢のような話。

退屈さなどはまったく感じず、最初から最後まで楽しめました。映画に賭ける凄まじい情熱が伝わってきたので、もうそこだけで観てよかったなと。

映画館スタッフの他に大学講師、映画パーソナリティー、VHS回収など、その行動力にも驚かされました。とても真似できそうにありませんね…。すごい。「映画狂人」と言われることにも納得。生活が映画漬け。

自分は「映画が趣味」という感じですが、坪井さんは「映画が人生」な感じ。映画に生かされてきた過去があり、映画のために生きる今があると。「映画に褒めてもらえるなら、そりゃもう何でもやりますよ」という言葉にも説得力があるし、なんだか涙腺にきましたよ。自分みたいな常人は熱が全然足りないんだなーと思い知らされた感じです。比べてもしょうがない気もしますが…。

もっと映画を好きになりたいなー。

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大学の講義で殺人トマト映画を見せてくれる坪井先生、最高。

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自分はスコーレに「通っている!」といえるほどは通っていませんでしたが、それでも見知った場所が映ってるだけでも面白かったりして、こういうドキュメンタリーを、しかもスコーレで見れたこと自体が嬉しかったりもしました。シネコンでの映画鑑賞とは少し違い、スコーレで映画を観ることは一回一回が特別な体験になっていく(いいすぎかもしれんけど)、そんなイメージです。イベント上映の時なんかは本気でそう思う。あと、正面の壁が毎週スゴイ。

坪井さんのことは前々から知っていました、と言っても会話なんかはまったくしたこともなく、見たことがあるという程度…。なので今回『シネマ狂想曲』を観て「こんな人だったのか!すごい!」という驚きも大きかったですねー。(映画キチガイだった)

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基本的には坪井さんへの密着ドキュメントですが、豪華な出演者の方々も面白かったです。「坪井篤史とは?」というインタビューに対して、「変態」だとか「頭オカシイ」などなど言いたい放題の監督たち。しかし誰もが認めているのは「映画に対しての狂った愛情」。証言からは監督との親密さなども伝わってきました。人との繋がりを大切にし続けてきた映画館なんですね。

白石監督の「超次元絶叫システム上映(トビダシステム?)」は、パッと見た感じは『ロッキー・ホラー・ショー』の参加上映方式の印象でした。けれど、仮装して参加しているのが監督や映画館スタッフ(坪井さん)なので、かなり強烈。滅多に体験できないことだしこういう特殊な上映方式は貴重だとも思います。なので、行かなかったことをちょっと後悔…。

「映画鑑賞を、いかに映画体験にするか」という部分に全力を注いでいるような、そんな感じ。すでにもうオンリーワンな映画館だと思います。

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そして、この映画の見所はなんといっても「VHSの墓場」。

量もすごいけど、置いてあるタイトルもすごい。あと、積み方なんかも最高。正直こういう部屋って憧れますよ、ビデオ屋みたいで。パッケージ見てるだけでも楽しいし。見たことも聞いたこともないような映画もあったりしてテンションも上がりました。墓場ってのは、ジャンク=ゴミの山という意味だったと思います。誰からも必要とされなくなった旧世代のメディアであるVHSの回収を続けているうちに溜まりに溜まって7000本以上。映画を観ない人にとってはクレイジーで常軌を逸した行為として映るでしょうが、文化を保存していると思えば理解できるのかも。

VHS一本一本が坪井さんにとっては「同居人」であり「子」という感覚なんですね。だから中古ビデオ屋に捨てられているジャンクな子供たちを引き取る(というよりは救助してくる)と。そうしなければいつかは消えてしまうかもしれない存在。というより、すでに消えつつある。そんな絶滅に瀕した希少な文化がVHSなのかもしれません。

「狂想曲」と名付けるのだから興味は「いったいどれだけ狂っているのか」という部分だったのですが、ちゃんと頭おかしかったんで大満足。個人的に一番「キてるなー」と思ったのは、やっぱりVHSへの接し方。これがあながち冗談とも思えず、わりとガチっぽかったのが素敵でした。あと、ゴミ映画をゴミと認めた上で楽しむのも、なんか良かったです。

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最も狂気を感じたのは、幼い頃(?)『帝都大戦』を観た帰りにファミレスで蒸発した父親を目撃したと言うエピソード、そんなショッキングな光景を目の当たりにしても動じなかったという坪井さん。その時すでに映画の素晴らしさを知ってしまっていたためなんだとか。

コレちょっと分かります…。間違ってるかもしれないし自分の場合は方向性が真逆かもしれませんが、現実にどんだけ不幸なことが起こっても「映画に比べれば全然たいしたことないな」と、そう感じて救われることってあると思うんですよね。映画ってそういうものなんじゃないかな、たぶん。

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密着する人物が魅力的、という時点でこのドキュメンタリーはすでに成功していたと思います。坪井さん見てるだけでメチャクチャ面白かったし。

ただ、終盤はかなりテレビ的なものを感じてしまいました。作り手側の意向としては「頭のオカシイ映画好きだけど、普段は良いパパですよ」ってことだったのでしょうか…。幼少期の家庭環境などを考えると、むしろそこにドラマがあるのかも…とは思うものの、個人的には家族愛(「パパ大大大すき」など)の部分にはそこまで惹かれなかったし、不必要にも思えました…。最後まで「狂人」として押し切ったほうが好みの作品になっていた気がします。

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というわけで不満もないわけじゃないんですが、とにかく主役が魅力的だったのと「名古屋を映画で一番熱い地にしたい!」という熱意がバンバン伝わってきたため良作ドキュメントだと思いました。65分は短かった、もっと長く見ていたかったくらい。個人的に一番好きなシーンはバッティングセンターにVHSを漁りに行くシーン、二人ともすごく幸せそうだったから。それからパンフのの出来が素晴らしかったです(ヒストリー of ザ 篤史)!

あとグッときたのが、中盤で挿入された今は無き映画館の数々。シネコンの隆盛とともに徐々に姿を消していった名古屋の劇場たち。なんだか感慨深い気持ちになりました…。

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実は中国語堪能なスゴイ人だった支配人!エドワード・ヤン!


↑予告