めちゃくちゃ好きでした。けど同時に苦しかったりもします。
バカ映画みたいな純愛映画。原作は『悪の華』の押見修造。
個人的評価:★★★★★★★★★☆
Suiito Puurusaido
2014年6月14日公開/103分/日本/映倫:G
監督・脚本:松居大悟
出演:須賀健太 刈谷友衣子 松田翔太 谷村美月 落合モトキ

冒頭から惹きつけられました。
プールサイドに横たわった少年。
視線の先にはプールへ向かう足。
うっすら脛毛が生えている。
腕を下ろすと、腕毛ふさふさ。
水に飛び込む瞬間、それが女子だとわかる。
そして主人公のナレーション。
「ぼくには、誰にも言えない悩みがある」
ここからなんとなく気味が悪いです(良い意味で)。

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毛深い女子高生・後藤(刈谷友衣子)はある日、主人公・太田(須賀健太)に、陰毛が生えていないことを知ります。
それを知り、後藤は毛深くて悩んでいることを太田に打ち明けます。
毛のことで悩んでいる者同士なら分かり合えると思ったのかもしれません。
そして後藤は太田にある頼み事をします。
「私の毛を剃ってくれない?」と。

この映画は、毛深い女子高生の毛を剃る映画です。

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ヒロイン後藤に対してはたぶん観ている人全員がツッコミを入れると思います。
自分で剃れよ!と言いたくなります。
しかし後藤は、
「痛くて剃れない! あんな痛いことなんで皆できるのかわかんない!」。
え、どういうこと…?と、理解するのが苦しいです。
ですが後半になると、後藤が自分で毛を剃るシーンがあり、それを見てようやく”痛くて剃れない”ということに納得できました(血まみれになります)。

後藤は毛深いことを悩みつつも、なぜか水泳部です。
理由は「水泳くらいしか得意なことがないから」です。
「腋毛が見られると恥ずかしいからクロールはできない」と言っています。
たぶん、もう見られてます。みんな見て見ぬふりしているだけです。
周りの人間たちは、誰も後藤の毛については触れません。
たぶん友だちもいないんだと思います。
映画の前半は「なんで?」と疑問に思うようなことが多いです。
後藤の発言はが理解できないことだらけでした。
しかし、それだからといってこの映画がつまらないとはなりませんでした。

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『共喰い』以来のまっとうな蝉描写

この映画で一番の見せ場は、毛を剃るシーンです。
密会の現場は、橋の下の川原です。
隔離された密室などではありません。
誰に見られるかわからないこの場所選びもすごいと思いました。
見られたところで罪にもなりません。
しかし、この”毛を剃る”という行為が観ているうちにだんだんものすごく危険なものに思えてきます。思春期の男女の立場になれば、クラスメイトに知られるのが死ぬほど恥ずべきことにも思えます。
にも関わらず、屋外です。
主人公たちは何も考えず、この場所での剃毛行為を始めていきます…。

そして、太田は初めて後藤の毛を剃ります。
剃毛描写は、完全にセックスのメタファーとして描いています。
まずは、腕に丁寧にクリームを塗る太田(これはたぶん前戯です)。
そしてT字カミソリでゆっくり毛を剃ります(挿入)。
ここはものすごくじっくり撮っています。
ほとんど無音の中で二人の息づかいが聞こえてくる感じです。
後藤が小さく喘ぐような声を出します。
太田の第一声は「ごめんっ、痛かった?」でした。
バカなことを全力でやっていて、本当に素晴らしいと思います。
見終ってから、監督は『私たちのハァハァ』を撮った松居大悟(元童貞)だと知ってなんとなく納得できました。

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青春映画らしくちゃんと血を流す主人公(非現実空間)

面白いのは太田の心情が、めちゃくちゃわかりやすく表されているところです。
剃毛の最中は太田がなにか思うたびに、それが心象風景である【森】の中の出来事として表されます。毛を剃るという行為が、心象風景では木を切る(または草を刈る)行為として表現されています。
つまりは【森】=後藤であり、生い茂った草木は”毛”なのです。
たびたびカットバックし森と現実を行き来しながら剃毛は進んでいきます。
腕の処理が終わると、「足も、お願いしてもいい…?」と後藤が言い出し、このあたりから個人的には足と腕以外の部分が気になりだします。
そうすると太田も同じようにスカートの中に視線が向き、心の中では輝きを放つ【泉】を眺めています。
それを見て「あの奥に…あるのか…」などと呟く太田。
偶然胸を触ってしまった際には、心の中で【タンポポ】に触れています。
もう恥ずかしいくらいにバカな描写が続きます。
ですが、それをいかにもそういう映像としては撮らずに、美しい青春の1ページ的な映像美で表現しているので、もはや絶賛しかありません。
その日の剃毛行為は足までで終わり、後日腋へと続いていきます。中盤に起こる<後藤との断絶>まではにやにやしっぱなしでした。
最初は後藤に対して「自分で剃れよ!」と思っていたのですが、二人の剃毛行為を目撃した後には、「むしろ剃らせてください…」というよくわからない心境に変わっていました。

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剃った毛をペンケースに入れて保管している…。

主人公・太田は体毛が薄く、身体の毛が生えません。
そのことで水泳部の先輩たちからいじめられています(陰湿さはなし)。
冒頭のシーンでは、羽交い締めにされた状態で水泳部員たちに全裸を晒しています(なぜか逃げる方向を間違えてもっと悲惨な目に)。
しかし、毛がないことでいじめられている……にも関わらず、クラスのちょっと可愛い女子にそのことでめっちゃモテたりもしています。「このツルツルぼうや~」などと言って顔中をペタペタ触られたりしてます。
モテてる男子なんか見ても正直羨ましくて、嫉妬しかありません。
けれど、この太田に心底ムカついたりしないのは冒頭で先輩からの恥ずかしい仕打ちにあっているからです。
毛がないという悩みをネガティブと同時にポジティブなこととしても描いており、そのバランスがちょうどよかったです。

そして、この太田のオナニーシーンが強烈です。
直接的な描写はありません。
太田は剃った毛を持ち帰り、保管しています。
それを自分の腕に擦りつけることで興奮していたのです。
なんとなくキム・ギドクの『メビウス』を思い出しました(男根を失った主人公が肌を擦ることで絶頂する)。
そして毛を擦りつけて興奮した結果、太田はその毛をムシャムシャと食べることで欲望を満たしています(最初は本人もわけがわからない様子)。
もう驚きと感動と謎の喜びで気持ち悪くなってきます。

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毛を腕に擦りつけて悦に入る主人公

太田と後藤はそれからも毎週月曜日に剃毛行為を続けますが、しばらくして太田に好意を寄せていた唯一の女子・坂下(荒井萌)が川原にいる二人を目撃してしまいます。それがきっかけで、太田は後藤に避けられるようになっていき、二人の剃毛は終わってしまいます。
後藤に会えなくなったことで太田は日々の生活に物足りなさを感じ始め、後藤の体毛は剃ってくれる人がいないためにどんどん伸びていきます。

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二人が会わなくなってから2週間が経ち、腕毛ふさふさになった後藤はついに自分で毛を剃る決心をします。
しかし、カミソリなんかは使いません。
後藤が手にしたのは、家庭科で使うようなデカい裁縫ハサミでした…!
それで腕をざくざく切りつけたらしく(肝心のシーンは見せない!)、血まみれになって倒れているところを父親に発見されます。
後藤「おとうさん、うまくいかなかった……」
自殺未遂にしか見えません。

それから二人は堕ちていき、クライマックスです。
真夜中のプールで、太田は後藤への狂った愛情をすべて吐き出します。
ここは本当によかったです!
なにより股に向かって絶叫しているところに本気で感動した!

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男「好きじゃないなら剃れない!剃れないよおおお!」
女「…今は好きじゃないけど、そんなの関係ないじゃん…」
男「剃れないッ!おれには剃れないよッ!」
女「は、ダメだよぉ!剃るって言ったでしょ、だって」
男「剃れない!剃れないよッ!」
女「剃ってくれたら好きになってあげるから」
男「好きになってあげるってなんだよ!おらぁ剃れないよおお!」
女「は、ずるいよそんなの!」
男「剃れない剃れない剃れない剃れッ…」
女「剃るって言ったじゃん!なんで!なんで!」
男「剃れない剃れない剃れない剃れッ…」
もみ合ってプールに落下。

…頑張れば泣けそうでした(たぶん伝わってないけど)。
セックスを排した恋愛は、どんな形であれ純愛だということを実証してくれるような内容でした。
そして、太田はプールの中で白い光を放つ【泉】を見ます……。

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最後の最後で「剃り方、おしえてあげるよ」。

感動しました。
なんかもう全部よかったと思えてきます。
個人的に映画のプールは眺めてるだけでも楽しいので、いつか【プール映画】というジャンルが確立してほしいです。
あと、本作は『カケラ』と『ばかもの』に匹敵する【腋毛映画】でもありました。
ということで、本当に素敵な作品でした。
映倫Gの映画にしてはだいぶ刺激的だったと思います。
でも大批判されてもしょうがない内容ですねー。
ぼくは感動しました。大好きです!
この後のオチの一言にも本当にスッキリさせられました。
二人は毛の苦しみから解放されたんだと思います。

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今回もヒロインを奪う『桐島~』のパーマ野郎


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