目を逸らしたくなる現実を突きつけられるようで生きるのが嫌になりました。虐待の映画です。ラストですこしだけ救われます。
個人的評価:★★★★★★★★☆☆ 80点
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2015年6月27日公開/121分/日本/映倫:G
監督:呉美保
出演:高良健吾 尾野真千子 池脇千鶴 高橋和也 喜多道枝

<あらすじ>
新米教師の岡野(高良健吾)は、ひたむきだが優柔不断で、問題があっても目を背け、子供たちから信用されていない。雅美(尾野真千子)は夫の単身赴任で3歳の娘と2人で生活し、娘に暴力を振るってしまうことがあった。一人暮らしの老人あきこ(喜多道枝)はスーパーで支払いを忘れ、認知症を心配するようになる。彼らは同じ町で暮らしており……。
(以上シネマトゥデイより)

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この微妙な距離感から虐待の一部始終を目撃!

監督は『そこのみにて光輝く』の呉美保ということで、巧いです。
演出も脚本もよく出来てると思いました。
それだからこそ、本当に胸が痛くなってきます。
虐待を受けている子どもにも、暴力をふるってしまう母親にも、心苦しくなってきます。本当につらくなりました。
「殴る」や「叩く」という感じでもなく、強めに「はたく」という印象でした。
最初の暴力シーンがたぶん一番過激です。
親のしつけのうんざりするような怖ろしさが伝わってきました。
虐待を受けている子どもはひたすら泣きながら「ごめんなさあい、ごめんなさあい、ごめんなさあい、ごめんなさあい」と言い続けており、ここは3分くらいの長回しで撮っています。
なかなかカットが切れず、ちょっとだけ嫌になる程度のしつこさなので、正直もう見たくない…と思ってしまいました。

しかし不自然にやりすぎたりはせず、そこの微妙な加減にリアリティをもたせることで、もしかしたらどこの家庭にもあるかもしれない”【しつけ】のための暴力”にちゃんと見えました。そのため話にすんなり入り込め、だからこそ共感することもできたように思います。
映画に登場する劇的な暴力シーンは基本的に大好きなんですけど、日常的に多少経験したことがあるようなリアルなタイプの暴力はやっぱり見るのがキツいです…。
子役の子には極力恐怖を与えずこれがトラウマにならないように、演技する際には『闇の子供たち』的な配慮はあったようですけど。
ですけど、うーん…やっぱり、嫌でしたね。
まあ、そういう題材の話だからしょうがないんですが。
むしろ、ここの部分が「嫌だ」と思えない映画なら撮る意味もない気がしました。

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影で恐ろしさを表現しています。

尾野真千子はべつに子どもを嫌いというわけでもありません。
子どもの方も母親を嫌っておらず(でも暴力には過敏な防衛反応)、普通に愛し合っています。
にもかかわらず、暴力を振るってしまう…。
なぜ虐待してしまったかという理由づけとしては、彼女も幼い頃に親から虐待されていた過去があったのです。 だから他の親が子どもを叱っているのも過剰に注視してしまう(『名前をなくした女神』みたいなママ友ソサエティの描き方も最小限で良い)。
さりげなさすぎてぼうっとしてたら見逃してしまいそうな煙草の焼き痕が尾野真千子の手首にあるんですけど、虐待の過去を匂わせる見せ方が上手いと思いました。でも終盤になるとけっこうわかりやすい説明キャラ(池脇千鶴)がいろいろわからせてくれます。
親の悪癖を受け継いでしまう『共喰い』みたいな血の話にはもちろんなりません(こういう話って好きなんですけどねー)。

主演二人とタイトル以外は何も知らない状態で観ました。
なので…ちょっと重かったですね。
ほんわかしたファミリー向け映画を想像しちゃってました(勝手に)。
この話、実質的な主役は(たぶん)高良健吾なのですが、群像劇になっています。三人の話がところどころで絡みつつ、けれどもそれぞれの結末に向かって突き進んでいきます。

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万引きがバレたおばあちゃん。

最初のシーンは老人から始まります。…もういきなり哀しいです。
まず、仏壇が映され、独り暮らしの未亡人であることがわかります。
それから庭の方へ顔を向けてる老人の顔。
たったそれだけのシーンなのに、ものすごくつらくなってきます。
完全な孤独が伝わってきます。よくある独居老人です。
観ているとなんだか寂しくなり、堪らなくなってきました。
すこしするとすぐに、ふとしたきっかけで老人宅を高良健吾が訪れてきます。
それに対して、老人は相手の要件を半ば無視して世間話を始めたりして…たぶんずっと人と会話をすることなく部屋にこもったような生活で、突然人がやって来て嬉しかったのかなと思いました。
この老人の会話できる唯一の場は、家の前の道です。
それも箒で掃き掃除しながら登下校する小学生に挨拶をする程度。
哀しすぎます。
認知症になったことでスーパーのどうでもいい野菜なんかを万引きしてしまったり、頭に障害のある子どもに戦争のつらすぎる思い出を語ったり、夜中に戦争を思い出して震えながら泣きそうになってたり、もうなんか途方もなく哀しいです。ちょっと嫌になりました。かわいそう…だとか思ってしまいました。
でも普通によくあることなのかもしれません。
とにかく冒頭からだいぶ気持ちが落ち込みました。

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高良健吾は新任一年目の小学校教師なのですが、生徒たちにナメられきっています。
この映画のキャラクターはほとんど全員がほぼ例外なく不幸せです。
すくなくとも自分にはそう見えました。というより、普通に生きて、人と関わって生活していると、本当に嫌なことだらけなのは当り前のことかもしれませんが。
ひとりひとりそれぞれが不満を抱えているのが、よくわかります。
高良健吾が担任するクラスはときおり学級崩壊となっており(パーティー状態で生徒が机の上で踊ってたりする感じ)、付き合っている彼女の部屋を訪れても仕事の愚痴を聞かされるだけで、自分の愚痴はあしらわれるしセックスもさせてもらえません。もう最悪です。
幸せな人間なんてやっぱりほとんどいないのだと思えてきます。

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彼女役の黒川芽以。この人はこの後浮気します。

前半は重苦しい不幸の気配が終始画面に漂っているような感じでなんですが、自分の中では高橋和也(『KAMIKAZE TAXI』のチンピラ)だけが唯一明るく見えました(この映画で一番闇の深い人物は池脇千鶴でした)。フツーのおっさん先生なんですが、この人のフォローがないと小学校のシーンがつらくなります。子どもたちの無邪気さはカワイイんですけど、高良健吾に感情移入しているとそういうものもどうしようもなくつらいです。

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たまにゲイっぽく見える高橋和也。

そして受けもっている生徒の中に親から虐待にあっている疑いのある男子が見つかり、高良健吾はこの問題と対峙していくことになるのです。
この生徒(かんださん)が一緒に暮らしている男は実の父親ではなく、パチンコしかしてない無職です。母親もいるのだけど、働きに出ているようです。そして夕方の五時を過ぎるまで生徒は家の中に入れません。
そのため、放課後の校庭でひとりぽっちでずっと時間を潰しているのです(ずっと鉄棒にぶら下がってる)。友だちもいないようで、これも不憫です。
ある日、高良健吾が雨の中この生徒を家まで送って行くと、無職の父親がちょうど家の前にいて、そこですこしだけ会話をします。
この場面はすごくいいと思いました。
マジで屑っぽい父親に高良健吾は若干ビビッてしまい、言いたいこと(子どもがかわいそうですよ…的なこと)もハッキリ言えません。
その結果、初対面は完全な負け試合っぽくなります。
そしてこれをきっかけに虐待への疑いが強まっていきます…。

ラストはこの屑親父と再び対決する直前で話が終わるのですが、そこはめちゃくちゃ良かったですね。誰もいない校庭をとぼとぼと歩き、時計を眺め、そこからの疾走!桜の花びら!そしてエンドロール直前のぶった切り感覚!
最高だったし好きでした。
正直見終った直後は、そこ見せろよ!と思ったのですが、時間が経つとあれで良かったんだと思えてきました。
結末の部分を描かないことでこの映画が成功したように思います。

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無職。ヒモ。シャツには<PEACE BE WITH>。

すべてがスッキリして爽快な気分になれる映画ではありません。むしろ陰鬱な気持ちになるかもしれません。劇的な絶望はないのですが、ものすごくリアルなどこにでもある不幸を描いています。ちょっとこの感じ『海炭市叙景』(大傑作!)っぽいなーと思いました(舞台も同じ北海道)。
どこの町にでもいるような人々の、小さな不幸せを描いています。
その不幸せな人間が今作では小さな子どもなので、なおさらつらくなってしまいました。
子どもが大人によって虐げられるような映画は本当に心が沈みます。

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こんな先生いたらよかったなー。

こういう映画を観ていつも思うのですが、もう題材が、たとえば【虐待】みたいなものだったら、当り前かも知れませんが、楽しい!とか面白い!とは思えませんよ…。思ってもそれを厭な感情が上回ってしまいます。
楽し気に話してたり、なんか面白いことやってても、ずーっと暗い緊張感が場に張っているような感じがしました。
良い映画には違いないと思います。そして決してつまらなくもないです。
結末を変に押し付けてくるようなこともなかったし、問題提起までで留まっているような感じがしました。ラストの切り方で所謂”考えさせられる映画”になったんだと思います。そんな感じの感想で、やっぱり好きな映画ではないんですけど…でも、すごかったです。

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ここは感動しましたー。


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