孤高の作家・佐藤泰志原作函館三部作がついに最終章。
『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』そして本作にて、完結。
個人的評価:★★★★★★☆☆☆☆
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2016年09月17日公開/112分/日本/映倫:G
監督:山下敦弘
原作:佐藤泰志
出演:オダギリジョー 蒼井優 松田翔太 北村有起哉 満島真之介 優香

<あらすじ>
これまで好きなように生きて来た白岩(オダギリジョー)は妻にも見放され、東京から生まれ故郷の函館に舞い戻る。彼は実家に顔を見せることもなく、職業訓練校に通学しながら失業保険で生活していた。ただ漫然と毎日を過ごしてしていた白岩は、仲間の代島(松田翔太)の誘いで入ったキャバクラで変わり者のホステス聡(蒼井優)と出会い……。
(以上シネマトゥデイより)

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先行上映で観てきました。めずらしく原作既読。

正直すごく楽しみにしていた作品なんですが、観終わってから若干消化不良感が残ってしまいました。
全体に漂うユルい空気感があんまり好きになれず、期待していたものとは違いフツーの日本映画でした。そして主演の二人が「うーん」という感じ。演技に対しては文句ないんですが、キャラクターがちょっと微妙だなあ…と。

無職とヤリマンのくせに(すいません)恋の描き方が美しすぎるんですよね!今回そこはダメ、というか自分にはハマりませんでした。劇的な不幸よりも、もっと普遍性のある「どこにでもいる人」にしたかった(?)らしく、それこそ佐藤泰志っぽくもありますが、原作へのリスペクトから空気感を忠実に映像化した結果、寄せすぎて本来の山下節があまり感じられなかった気もします。
『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』の影響も大きかったのでしょうか…。

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家庭をかえりみなかった男・白岩は、妻に見限られ、東京から故郷の函館に戻りつつも実家には顔を出さず、職業訓練校に通いながら失業保険で暮らしており、訓練校とアパートの往復、2本の缶ビールとコンビニ弁当の惰性の日々。なんの楽しみもなく、ただ働いて死ぬだけ、そう思っていた。

こういう生活にはメチャクチャ共感します。たぶん共感する人は多い設定だと思います。が、白岩がちょっとかっこよすぎます…。
オダギリジョーは好きですけど、ちょっとイケメンすぎてこのキャスティングはどうなんだ…という気分にもなりました。たまたま知り合った若い女といきずりのセックスできちゃうとか、なんかね…のれませんでしたよ。羨ましいとかそういう感じでもないし、過去に傷があり諦観めいたものは常に漂っているのですが、「絶望」を描くにしては日常が希望に満ちすぎてるような気もしました。その不幸の程度が中途半端というか、ハッキリしない感じがして、序盤から少し引いた目で見てしまいました。

やりたいけどやれなくてどうしようもなく一人で酒喰らって管巻いてゲロ吐いてオナニーして泣くみたいな、そういう男がよかったですよ、どうせなら。
まあ、極端ですけど。
個人的にはもうすこしダメ人間であってほしかった。というのも、相手のヒロインが突飛な存在なので主人公が沈んで見えてしまうんですよね。影が薄いというか、印象が弱くなるというか…。

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ヒロインの聡(さとし)を演じるのは蒼井優。
もう、情緒不安定すぎて…まったくついていけませんでしたよ!
可愛いけど、愛着は湧きません。
【鳥ダンス】もね、素敵!とはならず、頭オカシイ!怖ッ!って感じでした。
彼女の弱さや愛おしくなる部分を知る前に、登場がクレイジーすぎた気がします。なので、気持ちはいきなり引きました。

生きる意味を失っていた白岩は、彼女と出会ったことで変わっていきます。『オーバー・フェンス』とは、今いる場所から飛び立って新たな自分になる!といった意味だそうです。ちなみに、鳥ダンスは原作の『オーバー・フェンス』には無いオリジナルシーンであり、同じ小説家・佐藤泰志の『黄金の服』からの実写化。

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初対面は、路上で聡が激しく踊っているところを偶然に目撃してしまうシーンでした。そして呆然としてしながらも彼女の魅力に惹かれてしまい、訓練所の仲間・松田翔太に誘われてキャバクラへ行ったところ彼女と再会するのです。その後二人は恋に落ちていき…というストーリー。

どうでもいいけど「ヤリマン」って本当に厭な言葉ですね。
松田翔太はちょっとイヤらしくてゲスいイケメン役がハマってましたよ。

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やがて二人は親密な関係へとなっていき、濡れ場!
オダギリジョーも蒼井優も二人とも全裸で頑張っていました!
何度も体を拭う彼女は艶っぽくもありました!

しかし、なんかしつこく背中ばっかり撮ってましたね。オッパイは多少見せながら乳首はギリギリ見せないって感じの撮り方で、こういうシーンにはあまり期待してないし見せないからって怒りもないですが、やっぱりいらつきます。二人が愛しあっていることは伝わってきましたが、どうしようもなくフツー。ここは、おもしろくない。
映画なんだから素直に揉みしだかれればいいのに。

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個人的に一番楽しかったのは訓練校の仲間たちとかですね。
受講内容は大工になるための技術を学ぶというもの。前職も年齢もさまざまな人々が集まっており、キャラ立ちも抜群で、皆イイ感じでした。
とくに森君なんですけど!

森役の満島真之介が、もう本当にサイコー。ものすごく魅力的で、最も興味をそそられる人物でした。彼は大学を中退してしまった若者です。なんとなく周りの人間を見下しており、しかし訓練校の連中にはなめられまくっています。ひとりぼっちで友達もできず、教官にぐちぐちと罵られる光景は羞恥プレイのようでした。そんな状況にとうとうブチ切れてしまう森君…。

映画全体で一番共感できたのは彼でした。
(もう自分を見ているようで、悲しくもなりました…。)

そんな仕打ちに耐えきれず、ノミを手に取り暴れるのですが、あっけなく取り押さえられ、結局最後は逃げ出すように訓練校を辞めてしまう…。
せめて松澤匠をひと突きしてほしかった。『恋の渦』でブレイクした松澤匠が今回もニタニタ顔で超ムカつくキャラクターなんですよ!
前作『味園ユニバース』ではボコボコにされて血まみれになって気分爽快でしたが、今回は無傷。どうにか刺されてほしかった…。残念。

本作での暴力描写は皆無でした、流血もなし。(テンション下がるわ)

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満島真之介は役作りのため一ヶ月間横にならず、椅子に座って眠っていたそうです。そして、風呂にも入らなかったと…。
それを知って俄然好きになりました。もっと彼を見たかった、主人公たちよりも森君を見たかった!
気が触れたような佇まいから内面に潜む狂気はしっかり伝わってきましたし、主役だったらよかったなあと強く感じてしまいました。出演量もそこまで多くないんですよね。ここに興味がいきすぎて、オダギリジョーとか途中どうでもよくなりましたよ正直。森君のほうが断然気になる存在だったから。

むしろ彼に『オーバー・フェンス』してほしかった。
過去の傷より、いまの傷が見たい。

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このオジサンもいい味出てました! 本職はミュージシャンの(知らない)人!

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東京にいた頃、白岩の元妻(優香)は育児ノイローゼになってしまい、疲れ果てた彼女は頭が狂ってしまった。そしてある時、赤ん坊の顔面に枕を押しつけ殺そうとしてしまい、この事件を機にしばらくして離婚が成立。それが主人公の心の傷となったのです…。

彼にとっての重大なトラウマを義父の塚本晋也は「これしきのこと」と言い捨てる。ここが最も残酷な場面だったかもしれません。(そりゃ『野火』みたいの撮ってる人には「これしきのこと」かもしれませんが)

白岩は、どこにでもいる人だと思います。この映画に出てくる人たちは、みんながみんな、同じように傷や過去を背負いながら、何事もなかったように日常を生きている。白岩だけが特別なわけではないんです。決して珍しくはない。特別ではない人。ほとんどの人が彼のようになりうる。つまり、それは普遍的な人生であると思います。「こんなはずじゃなかったのに」と思っている人たちに向けた作品。人生うまくいってるとか、成功してるとか思う人にはピンとこない作品かもしれませんが、絶対そうじゃない人のほうが多いはず。

…ということで、過度に期待しすぎてしまったためか文句ばかりの感想になりましたが、よくできた映画だとは思います。「いい映画」だと思います。
うーん、でも美化しすぎな感もありました。現実はもっとクソ。

森君にはどうかフェンスを越えてほしい。

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塚本晋也監督の出演(声のみ)は、正直、全然気がつかなかったです。