凄い映画、衝撃的でした。原作既読。
個人的評価:★★★★★★★★★☆ 90点
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2016年10月08日公開/85分/日本/映倫:R18+
監督・脚本:亀井亨
原作:平山夢明
出演:福田美姫、BBゴロー、下村愛、サコイ、綾乃テン、奈良聡美

<あらすじ>
学校で陰湿ないじめを受ける10歳の少女フミ。家に帰っても、日常化した義父の虐待が日を追うごとに酷くなり安息の時間もない。母親は、夫の暴力から精神の逃げ場をつくるべく、新興宗教にいっそうのめり込んでいく。誰も助けてくれない……フミは永遠に続く絶望の中で生きている。そんなある日、自分の住む町の界隈で起こる連続殺人事件を知ったフミは、殺害現場を巡る小さな旅を始める。そしてフミは「ある人」に向けて、メッセージを残した…。

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とりあえず、ちゃんと劇場公開されたことを喜びたいです。なんでも、作品の過激さゆえに公開館が見つからず、お蔵入りになる危機まであったんだとか…(つい最近まで全然知らなかったのですが)。なので無事に映画館で観ることができて本当によかったです。元々原作も大好きでしたし。

で、感想なんですが、何ていえばいいのか…難しい(笑)。「面白い」とか、そういう映画ではなかったと思います。徹底的に絶望!まったく希望がない!とにかく恐ろしい!そして、フミちゃんかわいそう!ひたすら容赦のない演出で、どうしようもなく落ちこみました…。そんな感じです。

決してつまらなくはありません…。が、後味はそんなに良いものじゃない…。また、楽しい内容でもありません。かといって、観なきゃよかった!というものでもなく、うーん、強烈だったけど………なんなんだこれは。

所謂「厭な映画」だったと思います。

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学校でイジメられ家では虐待を受ける10歳の少女フミ。彼女は世界に絶望し、救いを求めた相手がこともあろうに連続殺人鬼だった…というお話。連絡方法は犯行現場にチョークで伝言を書き残すというもので、彼女にとっての最後の希望は殺人鬼が全員ぶち殺してくれることだったのです。

フミ「みんな、殺されちゃえばいいのに」

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本作の公開が危ぶまれた一番大きな理由は、おそらく過激な性描写のためだと思います。主人公のフミが義父から性的虐待を受けるシーン、また、冒頭でロリコンの変態に悪戯されるシーンを、ギリギリの部分まで隠すことなく(直接的ではないですが)描いていた印象です。ちなみに、主演の福田美姫ちゃんは撮影当時9才だったとか…。

しかし問題の性的虐待シーンを普通に撮ったのでは児童ポルノ法に引っかかってしまう(?)ということで、それを回避するための策としての表現方法が…これがスゴい。音のみを聞かせるだとか部分的に見せるだとかいろいろ方法はあると思うのですが、一応は「しっかりちゃんと見せてくれます」。性的虐待なので、要は義父に体を弄られたりしているわけです。この部分を法に抵触することなく、なおかつちゃんとそれとわかるように撮っています。

この発想が面白いと思いました。簡単に書いてしまうと、彼女の体を傀儡人形に投影しているのです。そして主人公のフミは、この奇怪な人形が義父に弄ばれる様を第三者的目線からじっと見つめている、と。つまり自分の姿を人形に投影して見ている妄想世界なのです。本能的な自己防衛手段としての妄想だったのだと思います、そうでもしないと心が壊れてしまうため…。児童ポルノ法を回避するための演出が、結果的には卑劣な虐待行為のおぞましさを際立たせるものとなっており、これはもう大成功だったと思います。とにかくもう人形がトラウマ級に不気味。気持ち悪すぎます。当然ながら女性器も付いていて、これを義父は弄ぶ…。このシーンの異常性は凄まじいものがありました。

児童ポルノとは、
「現実の若しくは疑似の(real or simulated)あからさまな性的な行為を行う児童のあらゆる表現(手段のいかんを問わない)又は主として性的な目的のための児童の身体の性的な部位のあらゆる表現」(Wikipediaより)


ギリギリな表現だった気がします。タブーに踏み込みまくっている感じがヒリヒリしました…。ここは超グロテスクだし、一番好きなシーンです。

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正直、観る前は、原作が鬼畜で陰惨な話ですし、カナザワ映画祭にて初上映だし…ということで、きっと「気の狂うような残酷スプラッター描写を皆でゲラゲラ笑う映画」なんだろうと思っていたんですが、まったく違いましたね…。グロ描写も一応いくつかありますが、そこまで過激にぶっ飛んでいるわけでもない…というか、わりとリアルなやつでした。殺人鬼は便所で死体を解体し、骨から肉を削いで便器に流す、そして残った骨はゴミに出す、というベテラン食肉業者みたいな仕事っぷり。結局、殺人の瞬間を見せるシーンはラストでのたった一度きりなんですよねー。

原作では大男だった殺人鬼ですが、映画では細身のフツーっぽい男性になっていました。それから姿も早々に見えてしまう。良い改変だったと思います。日常の生活範囲内に潜んでいる狂人という感じがビンビン伝わってきましたし、ちゃんと恐ろしかったです。演じる役者さんは寝る間も惜しんで【屠殺場の殺される音】を聞くことで役作りしていたんだとか…。

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それから、印象的だったのが音でした。耳に突き刺さるようなノイズ混じりの工業音のせいで物語の残酷度が増したような気がします。『イレイザーヘッド』のサントラなんかも思い出しました。音と、それに無機質で閉鎖的な工業地帯の風景で、少女の心の絶望を表現していたようにも感じました。ロケーションは最高です。というか完璧。呼吸が止まるような禍々しい緊迫感が終始画面に漂っているかのようで、カワサキという町の工業地帯がまるで日本の魔界でしたよ(笑)。終盤のピアノとバイオリンも素晴らしかったですし、無音もすごく効果的に使われていたように思います。セリフで語られない部分から、世界に絶望した少女の気持ちがガシガシ伝わってきた感じです。少女から最もかけ離れた存在、つまりは外部にいる誰かに救いを求め、それがたまたま連続殺人鬼だったのかな、とも思いました。

風呂場のシーンがなんとなく象徴的な絶望描写だとも思いました。「閉鎖的」で「無防備」、そして同じ浴槽内に暴力的な義父、という逃げ場のない恐怖。画で語るシーンは多かった気がします。

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個人的に一ヵ所だけ激しく不満…というか「こうだったらよかったのに!」と思うところは、義父の殺害描写ですねー。ちょっと弱い気がしました…。ここだけは原作のほうが強烈だったし、そのまま映像化してもらいたかったです。主人公にとっての元凶である義父なのに、アッサリと片づけすぎな感じがしました。瞬殺なのはいいですけど、派手な死に様が見たかったです…。

ひょっこり現れる殺人鬼もどうかと思いましたし、現場がわりと明るくていろいろよく見えすぎちゃうのもちょっとなあ…と、ラストシーンの食肉工場だけは、いろいろと残念でした。そこまでは本当にただただ圧倒されて、「文句なしの大傑作!」という感じだったんですが、義父が工場に到着し、「見いつけた!」の一言ですべてが冷めたような気がします。セリフはアドリブだったようですが…。少女の絶叫はいいとしても(個人的にはイヤですが)、その直前で熱が冷めたような感覚になってしまいました。原作のほうでは超残酷にエグい殺され方をしてるんですよねー。

「突然、南瓜を槍で突いたような音とともに義父の頭が裂け、熱い飛沫が雨のように降りかかった。見ると顎まで真っ二つに割れた義父の頭の向こうに巨大な影が立っている」「上顎を立ち割られ根っこまで丸見えになった舌が右に左に逃げまどい、嗚咽のような音が喉を震わせた、義父は胸元の空気を二三度、掻き毟り、やがて仰向けにどうっと倒れた。」
・・・という感じ。これはこのまま見たかった!!義父に対しては嫌悪と怒りでいっぱいなので、できる限り痛そうに殺してほしかった!!

殺される直前の「カッターナイフ」そして「狭い」という怖ろしすぎる部分も、そこまでは息ができないくらいの緊迫感だったのにいきなりここで安っぽく見えてしまった感じがしました。そして少女の絶叫へ…。

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原作者・平山夢明さんも出てました!!

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幼い少女が絶望的に虐げられて、さらに、救いもない話です。原作では、殺人鬼がラストで「鉈を捨てる」、つまり殺意がないことが分かるのですが、映画では救いがなさすぎました…。最後の絶叫が、あれが彼女にとっての『無垢の祈り』だったのだとしたら、あまりにも悲しすぎます。そして最後の最後まで絶叫し続ける【祈りの言葉】が、残酷すぎて、どん底まで突き落とされた気分でした。ラストで彼女が救われていれば、観ている観客も救われた気がします。後に引きずるような映画です…。救ってほしかった。

おしまい


↑予告です

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

原作の短編はこれに収録されてます。