良い映画でした。
個人的評価:★★★★★★★☆☆☆ 70点
この世界の片隅に
2016年11月12日公開/126分/日本/映倫:G
監督:片渕須直
声の出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、小山剛志、津田真澄、京田尚子、佐々木望、塩田朋子、瀬田ひろ美、たちばなことね、世弥きくよ、澁谷天外

初日にレイトショーで観てきました。民放のTV局の番宣なんかは圧力で(?)やってなかったらしいんですが、自分の観た回はわりと混んでてほぼ満席でした。全体的に年配の方が多かったです。ご老人の団体客が大勢いました…。

原作の漫画は未読の感想です(鑑賞後に購入しました)。なので観ている間は理解できてないところも多かった気がします…。正直、観ようかどうか迷ったりもしてたんですが、いろんな著名人の方々があまりにもベタ褒め&激推ししてらっしゃるので、「もう観るしかないな!」って感じで鑑賞!!

うーん、面白かったけど「うおおおお」と熱狂できるほどではなかったです。良い映画なんですけど、良い映画なんですけど、好きかどうかっていうと微妙だったかなー。泣いてません、笑いました。嫌いじゃないけど普通です…。

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<あらすじ>
1944年広島。18歳のすずは、顔も見たことのない若者と結婚し、生まれ育った江波から20キロメートル離れた呉へとやって来る。それまで得意な絵を描いてばかりだった彼女は、一転して一家を支える主婦に。創意工夫を凝らしながら食糧難を乗り越え、毎日の食卓を作り出す。やがて戦争は激しくなり、日本海軍の要となっている呉はアメリカ軍によるすさまじい空襲にさらされ、数多くの軍艦が燃え上がり、町並みも破壊されていく。そんな状況でも懸命に生きていくすずだったが、ついに1945年8月を迎える。
(以上シネマトゥデイより)

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ということで戦争映画です。しかし一貫して主人公すずの暮らしぶりが描かれているため、ちょっと特殊な戦争映画だと思います。たとえ戦時下にあったとしても、そこには日常という風景があり、そこで生活する人々がいる。笑ったり、恋したり、愛しあったりもする。そういった”普通の幸せ”を奪い去っていってしまうのが戦争だったのです。庶民の視点から戦時中の生活を描くという点がまず面白いところで、そういうものを描いた作品はいくつかあると思うんですが、これが物語の中心になっている日本映画はあまり多くないような気がします。最も評価されている点もそこなのかなと思います。

戦争と原爆という重い題材ですが、中盤まではビックリするぐらい何も起こりません。具体的な戦局などは映りません。体制側の人間も登場しますがチョイ役です。ひたすら庶民の暮らしぶりが描かれています。

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まず、主人公すずのキャラクターがすごくイイ。ほんわかした天然ボケっぽい雰囲気がとにかく可愛らしいです。彼女の周りに流れる空気感も心地よかったし、家族や親類や近所の人々とやりとりされる会話も楽しいものでした。庶民の視点から描いているだけに共感するところも多く、徹底的にディティールにこだわっていたようで生活のリアリティなども感じました。物語前半はかなり笑えるし、コメディとしての面白さもあると思います。

で、個人的に一番好きな部分なんですが、語りのテンポめちゃくちゃ良いな!ってことですねー。前半の空気感は、基本的にのんびりしているんですけど、細かいカット割りなんかも多くて、話の展開は超ハイペースだと思いました。観ていて退屈しない(できない)感じが最高に良かったです。それにも関わらず、日常的な生活は坦々とゆったり描かれていて、時間は留まることなく常に流れ続けている。ここのメリハリがしっかり効いていて気持ちよかったです。

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冒頭から年月日のテロップが何度も表示されて、これが原爆投下と終戦日までのカウントダウンのように思えました。これを見ただけでおそらく日本人なら誰しもそこに戦災が迫っていることが分かってしまいます。先を予見する恐怖感もありました。「この些細な幸せがこれから破壊されるのか…」と思うと、主人公の生き生きとした暮らしぶりがあるだけに、不憫にもなり、話が進むにつれて徐々に不安な気持ちが強まっていきました。ですが、誰が死ぬかも、死なないかもわからない。原作が素晴らしいのでしょうけど、脚本も演出も映像も丁寧に作られていたと思います。そのスリリングな部分をことさら強調して描いているようにも見えず、あくまでも主人公からの目線で生活を描くことに徹しているところが良かったです。

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何度も登場する食事のシーンが印象的でした。生きるためには何か食べないとならない。しかし食料の乏しい時代、配給される量は日々減っていき、闇市では何もかも値段が高騰している…。そのために人々は道端の野草を摘んだり、海面に浮かんだ魚を取ったり、水カサを増して米を焚いたりと献立にも工夫を凝らし、また、食べ物の絵を紙に書いて、それを見て飢えを凌いだりもしていました。しかし非常に厳しい食生活なのですが、なんだかそれさえも楽しんいるように見えました。「泣いてたら塩分がもったいない」というセリフが彼女たちの力強さを象徴しているように思えました。大切な人が亡くなっても腹は減るし、明日を生きていくためには食べなくちゃならないのです。

「戦時下で暮らす人々は不幸であり常に戦争と戦い続けているものだ」というイメージをなんとなく持ってしまっていましたが、それは実際にそうなのだと思います。しかし戦争という非日常も当時は意外と日常のこととして受け入れてたのかもしれません。塚本晋也監督の『野火』では戦場での極限状態の飢餓地獄が描かれていましたが、本作では飢えの恐怖や人間の尊厳が崩壊していく狂気などよりも戦争という辛い現実の中でも愉しみを見つけて乗り切っていく人間の力強さのようなものを感じました。主人公の視点から戦争を体験するような感覚はどちらも共通していたと思います。

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空襲のシーンは周りの風景と同等に扱われていたような気がしました。つまりそれさえも生活の一部であり、また、当時は逃れようのないものだったのだと思います。いきなり戦争がやってくるというよりは、戦争がジワジワと日常を侵食していくような感じでした。

そして1945年8月6日、広島市への原子爆弾投下。原爆が投下されるシーンも同じように、ピカッと閃光が遠くで輝くところが「何気ない日常の一部分」のような描かれ方をしていました(光を目撃した後も笑い合ったりしている)。その後になって、爆風で飛んできた広島市の回覧板を拾ったり、黒焦げになった人間が家の壁にもたれて亡くなっていたりするのですが、主人公たちはいったい何が起こっているんだか分からない。そういう不安や恐怖の描き方は巧かったと思います。当時もきっとこんな感じだったのかもなあ…と、そう思える説得力がありました。過剰さは抑えてリアリティを重視していた印象です。

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舞台となる広島県呉市は日本一の海軍工廠と呼ばれる港町だったそうで、そのためにアメリカ軍からの空襲に何度もさらされ爆破目標となっていたのです。

映画終盤、投下された時限式の爆弾が爆発し、姪っ子の晴美ちゃんが亡くなってしまいます。同時にすずの右手もふっ飛ばされます。ここが全体で最も悲痛なシーンでした。なんとか命は助かったものの、義姉に責められ、自分を責めて、大好きだった絵も描けず、以前の笑顔を失ってしまう主人公。戦争の残酷な面も目を背けずにしっかり描いていたと思います。

前半で日常描写の積み重ねがあったため、ここでの残酷さ、大切なものを失った喪失感、それらが際立ったように思います。絶望というよりは諦観のようなものを感じました。平穏と戦災とのギャップが大きくて、ここの落差は効果的でした。

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「なにも知らないまま死にたかったなぁ…」

姪っ子と右手を失ったことでそれまで存在していた生きがいを奪われてしまうすず。彼女がそれまで生きてきた世界は消えてしまったのです。そして戦争は終わります。玉音放送が流れ、直後の叫びは胸にきました。

「玉砕覚悟で戦うと言ったのに、なぜ敗北宣言をするのか、私にはまだ左手も両足もあって戦えるのに、負けを認めては、戦争で死んでしまった人達に申し訳が立たん!」と言うすず。

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お涙頂戴モノ映画だとは思いませんでした。感情の押しつけなどは感じなかったし、教訓めいた説教臭さも極力控えていた気がします。それに割合としては泣きよりも笑いの要素のほうが多かったです。フラットな目線で誠実に描いているような印象も受けました。

ラストシーンが前向きで爽快だったため、やりきれないほどの悲しさは残りませんでした。優しい映画だったと思います。街に明かりが少しずつ灯っていくシーンを見て、なんだか救われたような気分になりました。

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主人公の声優は女優のん(本名・能年玲奈)。彼女を起用したのは正解だったと思います。というか彼女以外に考えられない!ってくらいに声質と喋り方がすずさんにハマっていました。聞いていてとても心地よかったです。すずさんはのんさんだし、のんさんはもはやすずさん!そのくらいにキャラクターに同化していました。コミカルな演技もシリアスな演技も素晴らしかったと思います。上手いかというと…そんなこと全然ないと思うんですが、広島弁の違和感なんかまったく感じなかったし、相性が良かったんでしょうか…。まさに魂を吹き込んでいるという感じでしたね。主人公が実在していたら現在91歳なんだそうですよー。

正直、観に行くまでは「のん」ってことで半笑い状態だったんですが、『あまちゃん』以来の代表作になるんじゃないでしょうか。出演作はわりとチェックしてたんですが(『動物の狩り方』というのだけ観てない)、今までで一番楽しめました。「あちゃ~」「弱ったねえ」「困ったねえ」「えいッ!冷や~」とかね、もう可愛すぎでしょ!

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クラウドファウンディングのクレジット部分で映るアニメは原作から削られたシーン(口紅で描かれたエピソード)だったんだとか…。原作読んでもう一度見直したいです。

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白木リンさんのエピソードが削られていたようです。(とくに気づかず…)

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ミリタリー描写は緻密に描かれていました。それから爆撃の音なんかも音響にこだわっていたらしく、音は全部本物(?)だったんだとか…。これは迫力がありました。

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柔らかいタッチで温かみのある画でした。呉の町並み、山や海の風景、軍艦、昆虫、鳥の描写など、どれも普通にキレイでした。ビックリするほどクオリティが高いとは思わなかったです。

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戦時中であったとしても接吻もするし恋もする。意外と生々しかったです。

manga

そんなわけでいろいろ書きましたが、予想していたよりはフツーの面白い映画でした。テーマが重すぎるだけに安易に文句言えないのか、感想読むとどれも言葉を選びまくってる感じはしましたねー。批判するところもとくにないのですが…。子供からお年寄りまで万人が楽しめる映画だと思います。

実際に戦争を体験した方々から証言を取ったりと時代考証がすごいらしいので、戦時中の史実を後世に伝えていくためにも残すべき作品なのでしょう…。資料的な価値の高い作品なのだと思います。

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戦争を描いたアニメ映画といえば『はだしのゲン』(画像上)とか『火垂るの墓』などいくつかあると思いますが、そういうものと比べてしまうと、恐怖感は薄かったです。インパクトもありませんでした。腕がちぎれたり耳からウジわいたりしてるんですけど、残酷!ってほどでもなく、ここはショボかった。そもそもの原作に強烈な残酷描写ってのもあんまりないですし不必要なのかもしれませんが、個人的にはちょっと物足りないと思わずにはいられませんでした…。反戦映画としても、ちょっと弱い気がしました…(『炎628』とかに比べると)。それから、終始テンション低いってのも気になるし、やや予定調和な展開も…。リアリティ重視で描くとそうせざるを得ないのかなー。

好みではなかったです。語るべきは”今観るべき意味”とかそういうことなんでしょうね、きっと…。苦手です。

drama_k

2011年に放送された北川景子主演のドラマ版も一応観ましたが、戦争モノというよりは恋愛モノとして撮られており、欠損した右腕も冒頭で見せてしまう…。観る必要なかったかな…。


おしまい


↑予告