将棋を知らない人の感想です。
個人的評価:★★★★★★★★☆☆ 80点
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2016年11月19日公開/124分/日本/映倫:G
監督:森義隆
脚本:向井康介
声の出演:松山ケンイチ、東出昌大、染谷将太、安田顕、柄本時生、鶴見辰吾、北見敏之、筒井道隆、竹下景子、リリー・フランキー

初日のレイトショーで観てきました。

あんまり期待せずに観に行ったら予想以上に楽しめました、面白かったです!一番デカいスクリーンはまだ『君の名は。』(早く終わってください)に取られていたのでちょっと小さいスクリーンで鑑賞。席は半分くらい埋まってました。苦手な余命モノでしたが、静かで熱い盤上の闘いは見応えがありました。主人公の”勝ちたいんじゃ感”が最高でしたよ。好きな映画です。原作未読。

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<あらすじ>
1994年、大阪。路上に倒れていたひとりの青年が、通りかかった男の手を借りて関西将棋会館の対局室に向かっていく――。
彼の名は村山聖[さとし](松山ケンイチ)。現在七段、“西の怪童”と呼ばれる新世代のプロ棋士だ。聖は幼少時より「ネフローゼ」という腎臓の難病を患っており、無理のきかない自らの重い身体と闘いながら、将棋界最高峰のタイトル「名人」を目指して快進撃を続けてきた。
そんな聖の前に立ちはだかったのは、将棋界に旋風を巻き起こしていた同世代の天才棋士・羽生善治(東出昌大)。すでに新名人となっていた羽生との初めての対局で、聖は必死に食らいついたものの、結局負かされてしまう。
「先生。僕、東京行きます」
どうしても羽生の側で将棋を指したいと思った聖は上京を希望し、相談を持ちかける。先生とは「冴えんなあ」が口癖の師匠・森信雄(リリー・フランキー)だ。聖は15歳の頃から森に弟子入りし、自分の存在を柔らかく受け入れてくれる師匠を親同然に慕っていた。
体調に問題を抱える聖の上京を家族や仲間は反対したが、将棋に人生の全てを懸けてきた聖を心底理解している森は、彼の背中を押した。
東京――。髪や爪は伸び放題、本やCDやゴミ袋で足の踏み場もなく散らかったアパートの部屋。酒を飲むと先輩連中にも食ってかかる聖に皆は呆れるが、同時にその強烈な個性と純粋さに魅了され、いつしか聖の周りには彼の情熱を支えてくれる仲間たちが集まっていた。
その頃、羽生善治が前人未到のタイトル七冠を達成する。
聖はさらに強く羽生を意識し、ライバルでありながら憧れの想いも抱く。そして一層将棋に没頭し、並み居る上位の先輩棋士たちを下して、いよいよ羽生を射程圏内に収めるようになる。
そんな折、聖の身体に癌が見つかった。「このまま将棋を指し続けると死ぬ」と医者は忠告。しかし聖は聞き入れず、将棋を指し続けると決意。もう少しで名人への夢に手が届くところまで来ながら、彼の命の期限は刻一刻と迫っていた…。
(以上公式HPより)

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29歳で夭折した実在の棋士、村山聖(さとし)の生きざまを描いた映画です。

病と闘いながら命を削って将棋を指し、「どう死ぬか、どう生きるか」に対峙した主人公・聖。彼が名人位を獲る夢を追いかけた最期の4年間を描いていました。余命を精一杯に生きる執念のようなものを感じました。「将棋で一番になるんじゃ!」って感じで熱量は凄まじかったです。生きるとは何なのかを考えさせられました…と書くと重々しくなりそうですが、そういう映画だったと思います。

全体的には静かな映画という印象が強いです。派手な演出もほとんどなく、画的にも地味だったと思います。しかし退屈さなどは感じさせず、説明的な無駄セリフを極力省いて無音で魅せるような演出は素晴らしかったと思います。ドキュメンタリーのような生々しい瞬間も何度かありました。主人公が死ぬまでを描いた所謂”余命モノ”なんですが、変に泣かせようともせずに、媚びてない感じが個人的には好きでした。

まず、最初のシーンから面白かったです。1994年、大阪。早朝、村山がゴミ置き場に転がっていて、それを見つけた作業服のおっちゃんが将棋会館まで連れて行ってあげるというもの。一般人が将棋を指す棋士たちを目の当たりにして、言葉も出ずに立ち尽くしてしまうというシーン。なんだか非現実的なものに出会ってしまったような演出が面白かったです。ここはセリフも少なめだしモノローグのようなナレーションもなし。最初のシーンで「あ、この映画好きかも…」と思えました。ゆったり流れる空気感も心地よかったです。

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村山聖は5歳でネフローゼ症候群になり、27歳で膀胱ガン発症、そして29歳で亡くなりました…。羽生との対戦成績は6勝8敗(うち1戦は不戦敗)。羽生との対局に敗れた5ヶ月後に亡くなったそうです。天才・羽生善治とほぼ互角に戦っていた棋士がいたんですね!

将棋についてはルールがなんとなく分かる程度の知識しかありません。原作も読んでいないので村山聖という人物のことは本作で初めて知りました…。羽生名人は顔と名前くらいしか知りませんでした!・・・ということで、ほぼ何も知らない状態だったんですが、ちゃんと楽しめましたよ。(将棋に詳しかったらもっと楽しめたのかも)

手術をしなければ余命はたった3ヶ月!ということが中盤で明らかになるのですが、これに対しての主人公の返しがスゴい。一刻も早く手術して金玉を取らないとマズいという状況で「麻酔しますか? 麻酔は脳が鈍るんでイヤです」と言う村山。あくまでも優先順位は将棋が第一で、「将棋が指せないなら死ぬ!」という感じでした。並々ならぬ覚悟を感じました。そして「体調の良い日なんてないんだよ…」というセリフがネフローゼ症候群という病気の壮絶さを物語っていた気がします…。映画を観るまで知りませんでしたが、副作用で太るみたいですね。決して吉牛を食べ過ぎて太ったわけではないようです…。

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松山ケンイチはこの役のために体重を20kg以上も増やしていたそうです…。生前の村山聖の風貌を事前に知らなかったので似てるかどうかは鑑賞中とくに気になりませんでしたが、写真を見ると……あんまり似てない!!

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一番好きなシーンは、定食屋「よしのや(?)」での羽生さんとのサシ呑み。もうめちゃくちゃ好きですよ。映画全体で一番印象に残りました。ここのシーンは青春映画であり、そしてラブコメだったと思います。話の内容も胸にきました。穏やかで優しい名シーンだったと思います。

村山の趣味が少女漫画と麻雀と競馬なのに対して羽生さんの趣味はチェス。見た目も性格も好みの趣向もまったく噛み合わない二人なのですが、将棋に人生をかけているというただひとつの共通点で繋がっていたのだと思います。お互いに実力を認め合い、高みを目指していける存在だったのでしょう。村山にとって羽生さんは目標であり、ライバルであり、そしてこの映画においてはヒロインでもありました。羽生さんの「私は、あなたに負けて死ぬほど悔しい」というセリフはめっちゃグッときましたねー。演じていた東出昌大も上手だったと思います。言葉の一言一言に重みがありました。

ここに到着するまでの過程も面白かったです。背後から距離を置いてストーカーのように尾行する村山…しかし途中で気づかれてしまい羽生さんと目が合ってしまう。が、何も言えず会釈。どうにか行きつけの店で憧れの人と食事をすることとなるのだが…。

全体的には女っ気がほぼ皆無な映画ですが、なんとなく恋愛のようなBLっぽさも感じてしまいました。ニヤニヤしちゃいましたねー。「趣味が、全然合いませんね!」とか面白い、なぜかキュンとなりました。狙ってやってんだろうけど控えめな演出が超イイんですよ!あとね、「イタキス読んだことあります?」とか言葉に出して言っちゃうのも、気恥ずかしくて…なんともいえないものがありました。このシーン大好きです。

笑える瞬間も何度かありました。「ここは有名人でも店主が話しかけてこないから良いんです」と村山が得意気に店の良さを語った直後に店主が現われて、「羽生さんだよね?サインちょうだい」と声をかけてきたりして、場が静かで落ち着いているだけにちょっとしたことでもクスッと笑えるんですよねー。緩急のつけ方がとても上手だと思いました。なんとなく初デートのぎこちなさのようなものも描かれていたし、初対面の相手とのお見合いみたいでもありました。いやー男同士なのにドキドキした!サイコー!

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羽生さんの人間性が一番出ていたシーンだと思います。主人公とは対照的に”頭脳派の天才”という感じでカリスマ性も感じました。東出昌大の演技は羽生善治の喋り方や癖を研究しまくってこんな感じになったんでしょう。特別詳しいわけでもないので知っている範囲のイメージですが、特徴はよく捉えていたと思います。ただ、少しモノマネっぽさが気になってしまいました…。若干ドラマチックすぎるようなセリフの言葉選びはとくに不自然とも思わずリアルに感じられました。眼鏡は羽生善治さん本人から借りていたようですね。

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村山の趣味は少女漫画です。なので、自室は本とCDが雑多に積み上げられている素敵部屋。部屋の四方は棚になっており漫画本がぎゅうぎゅうに詰められていました。ほぼ天井近くまで本の山。万年床っぽい布団以外のスペースは物だらけで足の踏み場のない状態。棚の上にはAKIRAが全巻積んであったりしてなんとなく自分の部屋を見ているようで親近感も湧きましたー。時代設定は90年代のため、懐かしい本がいっぱいあって面白かったです。なんていうのか、ちゃんとクサそうなんですよね!

キャラクターの性格も破天荒で面白かったです。ハチャメチャだけど人間味に溢れており、人づきあいは不器用だけど周りの人間が放っておけない愛らしい人物だったのだと思います。爪は右手人差し指と中指以外は長く伸びっぱなし。髪もボサボサ、服装も気を使っている様子はなし。趣味は酒、麻雀、競馬、少女漫画。食への傾倒っぷりも凄まじく「シュークリームはユニオン、牛丼は吉野家、お好み焼きはみっちゃん、カツ丼は徳川」などのこだわりよう(グルメとかではない)。あと、酒。酒豪でもないのでしょうけど、呑みに行くとガブガブ飲んでしまう。重い病気で酒は体に良くないにも関わらず…。酒を呑む量だって他人には負けたくない。そんな感じで極度の負けず嫌いで不摂生。なので、食生活が死期を早めたような気がしないでもないですね…。

聖「牛丼は絶対に吉野家じゃないとダメ!」

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主人公の夢はふたつあって、ひとつは「素敵な恋愛をして結婚をすること」。もうひとつは「羽生さんに勝って名人になること」。羽生さんとのサシ呑みで主人公の夢が明かされるのですが、僕はここで泣きました。映画の中のキャラクターたちが流す涙と同じくらいの分量泣きました(ごく少量)。

女を知らずに生きてきた29年間の童貞人生。少女漫画を読んでいたのも、恋愛への憧れのためだったのかもしれません。しかし膀胱ガンのために睾丸を切除することとなり、手術をした結果一生子供をつくれない体になってしまう村山…。すごく切ない気持ちになりました。

行き着けの古書店の女性に好意を寄せるものの、結局は最後まで気持ちを伝えられずに別れてしまいます。実際どうだったのか分かりませんけど、絶対あの子のことが好きだったと思うんですよねー。しかし告白できず、ほとんど言葉を交わすこともできません。レジで漫画を渡すところも、女性を直視できない立ち居振る舞いも、すごく共感してしまいました。受け皿に漫画を投げ出す感じがね、ひたすら恥ずかしそうでモジモジしたいんだけど我慢しているあの感じが、もうねー、いやー、好きでした!(意味わからないと思います、すいません)

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愛読書として登場する「イタズラなKiss」に何か意味があるのか気になりましたが、ちょうど実写映画の公開も控えているし、鑑賞中は「もしかして宣伝なのかな?」くらいにしか思ってませんでした。観終わってから知ったのですが、作者である多田かおるは連載中(1999年)に事故で亡くなってしまい漫画は途中で終わってしまったんだとか…。なんとなく村山の境遇とシンクロするものがありました。そういったことを意識してのチョイスだったのか、原作との改変点なども気になりますね。

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そしてラストは羽生との対局です。

両者の気迫が音と表情のみで伝わってきました。部屋全体に緊張感が漂っているようでした。脳内でのセリフも排除していて二人とも終始無言。余分な部分をそぎ落としていたような画作りもよかったと思います。聞こえてくるのは駒がパチパチ鳴る音、かすかな息づかい、それぐらいでした。言葉なしに伝わってくるものがあり、ここは役者の演技に圧倒されました。説明過多じゃない部分がよかったです。

究極の頭脳戦ということで、内心『デスノート』みたいなやりあいになったらイヤだな…と思っていたので、ホッとしてしまいました。戦況をほぼ説明せず(控え室での解説は多少あった)、演者の顔のみで勝負!って感じが良かったです。凄まじかったです。松山ケンイチは一手一手まるで命を削っているように打ち込んでいて、名演だったと思います。

盤面を見ても具体的に何がどうスゴいのかは分からなかったんですが(笑)、白熱した死闘の熱量みたいなものはビシビシ感じました。頭ん中がよくわからないのは逆に良かったのじゃないのかなー。あと、対局中にカットバックがいくつか入り(スローモーションで飛び立つ白鳥など)、ここは好みもあるかと思うんですが、個人的には好きでした。演者は二人とも棋譜を丸暗記してぶっ通しで撮影していたそうです。

劇伴が最高だったと思います。とくに映画前半はメリハリが効いていて大好きです。無音とそうじゃないときのバランスが絶妙でした。

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対局の最後に村山は痛恨の落手をしてしまいます。これが敗因となり、羽生に負けてしまう…。変な理由づけすることなくわりとアッサリ見せていたのが印象的でした。ものすごくあっけなかったです。ここはドラマチックに描きたくなりそうなものですが、そういうことをすると逆に嘘くさくなってしまったのかもしれません。ここの部分はなんとなく賛否ありそうな気がします…。個人的には、引っかかりはしましたが、悪くなかったですよッ!(上から目線)

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最も共感できたのは染谷将太が演じる大阪の三段棋士・江川でした。プロ棋士を目指している青年なのですが、年齢制限である満26歳の誕生日が迫っているため次の試合で負けてしまえば奨励会から退会となってしまう。四段に昇格できなければプロになることを諦めなければならないのです。試合の相手は中学生みたいなチビっ子棋士でした。理由はわかりませんが江川は対局中に鼻血ブー!!(興奮したから?) 血をダラダラ流しながら将棋を指す染谷将太の姿にはグッときました。血まみれになっても対局は続きます。

彼の「なぜ将棋をやっているのか」という理由が、「出会ってしまったから」というところもすごくよかったです。きっと誰しも動機はそういう曖昧なものなのでしょうね…。対局中の心境も突き詰めると「勝ちたい!負けたくない!」というシンプルなものになるのかもしれません。村山の「先のことをあれこれ考えても仕方がない。今僕らがやるべきことは目の前の一手に集中することだ」というセリフも突き詰めていった結論がそれだったのだと思います。

挫折する人間もしっかり描いていたし、そこでの葛藤もオチもあり、出番はそこまで多くはないけれど印象に残りました。染谷将太はいつも通りの名演でしっかり役をやりきっていたと思います。そして最終的に江川はプロ棋士の道を断念し、将棋関係の出版社へと勤めることに。やはり勝負の世界は甘くないのだなあと痛感しました。絶対血まみれになるような話じゃないはずなのに流血させてくれるのが個人的には最高でした。あ、あと車内での嘔吐シーンも一応ありました!

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森監督の監督作はこれが三作目で、『ひゃくはち』も『宇宙兄弟』も観ていましたが、『聖の青春』が一番面白かったです。元々ドキュメンタリー番組を製作していた方だったみたいで、監督の資質と話の相性が良かったんじゃないかなー。作品数は少ないですが、いまのところこれが最高傑作だと思います。

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脇を固める役者たちもすごく魅力的でした。棋士たちはみんなイイ味出していたと思います。リリー・フランキーも安田顕も今回は面白い演技せずにフツーの渋いおじさんに徹していたし、厭味もなくイイ感じでした。わりとリアルに存在しそうな人たちだったので、そのために主演二人の非凡感が際立ったような気もしました。筒井康隆は小汚い役が似合うようになってきましたね!

リリー・フランキーの「村山くん、これはあかん。これはもう詰んどる!」というセリフが印象的でした。村山聖の人生は将棋のようなものだったんじゃないのかな。

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柄本時生は煙草の吸い方と煙の払い方がサイコー!

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死んで悲しいというよりは、人間なんていつかは死ぬんだからそれまでに何をすべきか、どう生きるべきか、そういったものを考えさせられました。身一つでやってきて頭のみを使って盤上で死闘を繰り広げる棋士という職業がすごくカッコよく見えました。終盤はちょっと間延びしているような演出が気になりましたが、静かで熱い良い映画だったと思います。故人への敬意も感じました。

もし村山が病気で命を落とすことがなければ名人となっていたかもしれない。しかし病気になっていなかったら、そもそも将棋と出会うこともなかったかもしれません…。「僕には時間がない。だから勝たなきゃいけない」というセリフは切実で胸に迫るものがありました。

原作は未読のためどのへんまで脚色しているのか分かりませんが、向井康介の脚本はやっぱり好きですねー。主人公はダメ人間というほどではないですが、多少はそういう部分もあったりして、描き方は巧かったと思います。AVをちゃんと「アダルトビデオ」と言うあたりにも90年代を感じたりして…。原作も読んでみたくなりました。ということで、また長々とまとまりのない感想文になってしまいました…。最後に、好きな名セリフベスト3!


グッときたセリフ ベスト3
  • 「爪も髪も伸びるってことは生きてるって証拠だ」
  • 「神様のすることは、僕には予測できないことだらけだ」
  • (将来、プロ棋士がコンピューターに負けることがあると思いますか?)(ない)

おしまい

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ここで使用された将棋の駒は実際に村山聖が使用した遺品だったそうです。


主題歌は大嫌い。

聖の青春 (角川文庫)